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鹿児島家庭裁判所 昭和42年(少ハ)3号 決定 1967年12月26日

本人 N・D(昭二二・一二・二生)

主文

N・Dを昭和四三年一〇月一〇日まで医療少年院に継続して収容する。

理由

N・Dは、昭和四一年六月一日当庁で窃盗保護事件により中等少年院に送致する旨の決定をうけて人吉農芸学院に収容され、昭和四二年二月一四日同院を仮退院したが、昭和四二年七月三日当庁で昭和四三年一月二日まで特別少年院に戻して収容する旨の決定をうけて大分少年院に収容されたものである。しかるにN・Dは昭和四二年一〇月三〇日梅毒治療のため、医療少年院に種別変更のうえ福岡少年院に移送され現在同院に収容治療中であるが、昭和四三年一月二日を以てその収容期間が満了するところ、昭和四二年一二月一三日福岡少年院長井上謙二郎から、少年の家庭は貧困で適切な治療を行うだけの経済的負担に耐えられず、また病状が顕症性であるため社会復帰をさせた上治療を継続せしめることも不適当であるとの理由で昭和四三年一〇月三一日まで収容継続の申請があつた。

而して少年院法一一条の規定は、少年保護の目的を達成しようとする趣旨に出たものであるから、その趣旨に反しないかぎり、少年が二〇歳に達した場合においても戻し収容を継続できるものと解するのが相当である。

そこで進んで本件申請につき審理するに、本人の病状は梅毒第二期であつて昭和四二年一一月七日現在ではワツセルマン緒方氏法六四〇倍以上陽性、凝集法一二八倍以上陽性、同年一一月三〇日現在ではワツセルマン緒方氏法一六〇倍以上陽性、凝集法三二倍以上陽性であり、同年一二月一三日に第一回の治療を終えたばかりである。しかして今後も継続して治療する必要があるところ、家庭における治療継続は経済的事情により適切な治療がなされる見通しも薄く、そのうえ前記仮退院中の本人の行状からみて、保護者の許へ寄りつかない可能性が強い。また本人も梅毒のため頭髪が薄く、それを気にして現時点においては退院を望んでいない。

かかる事情のもとでは、少年を昭和四三年一月二日の経過とともに退院させることは不適当であり、本人の病状からみて昭和四三年一〇月一〇日まで医療少年院に継続して収容するのが相当である。

よつて、少年院法一一条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 寺田幸雄)

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